1cmの幸せ

私の少しの幸せを貴方に届けましょうか

水の泡が消える前に

暗い、光も届かない。

そう、ここは深海の底。

あぁ、なんで僕は此処にいるのだろう。

さっきまでは、地面に足を着いていた。

でも。

今は。

こんな。

誰もいない暗闇に独り、沈んだ。

まだ生きたかったのに。

伝えたい事が沢山あったのに。

あの人を、お兄ちゃんと呼べなかった。

大切なあの人を、ファーストネームで呼べなかった。

今まで忌み嫌っていた人たちに、「ごめんなさい」と謝れなかった。

あの人たちが正しかったのに。

僕が間違っていたのに。

あの人は、赦してくれるだろうか。

こんな汚く、冷たくなって動かなくなった僕を、笑顔で迎え入れてくれるのだろうか。

いや、迎えてもらえなくても良い。

謝れるだけで、思いを伝えられるだけで、それで良かった。

涙と言えない涙が、僕の瞳から溢れる。

肺の中に水が入っていくのがわかる。

息が、息が、酸素が必要。

でも、全身麻痺した僕には、そんな事すら、今まで身体を動かしていた事さえ、難しくって。

意識が、意識が、飛んでいく。

僕は、此処で終わりだ。

誰にも赦してももらえずに、謝れずに、終っていく。

きっと誰の記憶にも残らない。

それでも良い。

僕が生きていた証しさえ残っていれば。

英雄になろうなんて思っても無い。

証しさえ、残っていれば。

証しと、僕に関わっていてくれた人たちと、大切な人が生きてくれていれば。

朦朧とする意識の中で、僕は声にならない声を出す。

「…あ…が…とう…」

さぁ、死を友だちとして迎え入れようじゃないか。

最後の友だ。

仲良くしよう。

 

 

 

 

 

 

「やっと、会えたのね」

「…そうだね」

「遅いよ、つまんなかった」

「ごめんよ、君に会うためには時間をかけなくちゃ」

「でも良いよ」

「なんで」

「君がいてくれれば、私はそれで十分だ」

「そうか…。なら、最後に言わせてくれ」

「なんだい?」

「君に出会えて良かった」

「…私もだよ。あなたに会えて、良かった」

偶然なんかじゃない。

こうやって出会えたのは、きっと神様の計画だ。

僕は信じようじゃないか、神様を。

運命の悪戯を。

 

 

僕たちは、やっと、出会えたんだ。